企業が大規模な地震や風水害などへの対策を強化させている。非常食セットを配布したり、被災時に、事業の中断に追い込まれた場合でも素早く復旧させるための米国流の「事業継続計画」を作る動きも目立ってきた。(西沢隆之)
〜サバイバルキット
富士ゼロックスでは非常食や保温シート、飲料水の入ったサバイバルキットを社員に配布している(東京・港区赤坂の本社で) 富士ゼロックスは、東海地震が万一発生した場合に備え、社員の生死にかかわる大きな被害が想定される静岡、愛知両県内や首都圏で働く計約8000人に、米国製の「サバイバルキット」を持たせている。「天災の際に救援隊が駆けつけるまでの目安」とされる3日分の食料と水、保温シートを箱詰めにしたものだ。
キットは米沿岸警備隊も実際に利用しているもので、配布された社員は、自らの机の引き出しに入れて、いざという時に活用する。
全社員約3万人に対し、「夜間の行動は避けよ」など、大規模地震が起こった際に取るべき行動基準や、「悪天候の日は、好天時よりも1時間早く暗くなる」など、生き残りのために知っておくべき基礎知識を載せた携帯サイズの「サバイバルカード」も配布済みだ。岩見智彦(のりひこ)・総務部危機管理担当マネジャーは「災害の際に、社員自らが生き残らなければ家族の安全も事業の継続もありえない」と、その狙いを強調する。
さらに、富士ゼロックスでは、より耐震性に優れた建物に一部の営業拠点を移すなど、将来の事業継続計画の策定もにらむ。
〜3種の安否確認手段
震災時対応訓練の結果を検証する資生堂リスク対策委員会のメンバー 今年3月、資生堂は、国内の関係会社を含む約2万人を対象に事業継続計画を策定した。
この計画は「災害が発生して4日目には社員が出社し、仮に事業が中断しても1週間で再開し、1か月で復旧を果たす」とする工程表を念頭に作られた。企業が事業を展開する上で、「災害時に商品の欠品を出さず、消費者の信頼をつなぎ留め続けるためには、事業再開への工程を順守することが欠かせない」(山田敦則・総務部参与)からだ。
計画に基づく様々な災害対策は、できるだけ速やかに事業再開できるように作られている。例えば、口紅の生産がその一例だ。国内販売向けに口紅の生産を一手に担う鎌倉工場(神奈川県)が被災した場合、いったんは米国にある工場で代替生産を行うことが決まりかけた。だが、社内で多くの検証を重ねた結果、「結局、船積みで持ってくるよりも、国内で生産再開を急ぐほうが早期に復旧できる」との結論になり、鎌倉工場の再稼働を軸とする方向に変わった。
同社が優先復旧を図るべき施設として、鎌倉など国内4工場に加え、物流拠点とコンピューターセンターなどの情報システム拠点、本社を加えた計11拠点が指定されている。
社員などの安否を確認する手段も、電話と携帯電話、パソコンによるメール送信の3パターンが用意されている。救援要員や援助物資についても、本社から派遣されるだけでなく、国内を12ブロックに分け、ブロックごとに支援体制の網をかけるなど、重層的な態勢にしているのが特徴だ。
資生堂は今後、
鳥インフルエンザへの対応などについても事業継続計画に反映させ、「有事」への対応を強めていく構えだ。
首都直下型地震への懸念強く…背景
多くの企業が災害対策を強化している背景には、国土の面積では日本が世界全体の0・25%にすぎないのに対し、世界に占めるマグニチュード6以上の大規模地震の発生割合が22・2%と、高水準にあることが挙げられる。
とりわけ懸念される首都直下地震では、国家予算の1・4倍に相当する約112兆円の経済被害が想定されており、企業活動の早期復旧が、社会経済活動への悪影響を極力抑えるためには欠かせない。
政府の中央防災会議でも企業向けに事業継続計画の指針を示しており、企業側も指針を参考に事業継続計画作りを加速させている。企業の災害問題に詳しい東京海上日動リスクコンサルティングの八田(やだ)恒治・主任研究員は「災害が頻発する一方で、多くの企業は在庫を持たない効率的な経営を迫られている。従来以上に事業の継続・早期復旧について、綿密な検討を進めておく必要性が高まっている」と話している。
<メモ>事業継続計画
企業などが災害などの被害を受けた場合でも事業を継続させるための計画。2001年の米同時テロの際に、この計画に沿って迅速に対応した米企業がその後、好業績を残したことで、世界的に重要性が注目されるようになった。日本の災害対策で遅れている分野の一つと指摘されている。
(2006年5月22日 読売新聞)